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東京地方裁判所 昭和33年(行)118号 判決 1958年11月27日

原告 有限会社魚鉄

被告 荒川税務署長

主文

本件訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和三十一年十一月三十日付でなした原告会社の昭和二十九年十月一日より同三十年九月三十日までの事業年度分の法人税につき、法人税法第三十条に基く決定、並びに、右決定の訂正決定はいづれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として、

原告は、魚類の小売販売を目的とする会社で、昭和二十九年十月一日より同三十年九月三十日までの事業年度分の法人税について、同年十一月三十日被告に対し、確定申告をした。しかして右事業年度における原告の損益計算は、金二六、二八六円の損失であり、法人税額は零であつた。しかるに、被告は右事業年度における原告の法人税に関し、昭和三十一年十一月三十日付で、法人税法第三十条に基き、原告の所得金額、金七四二、九三一円、法人税額金二九七、一六〇円、加算税額金一四、八五〇円と決定した。そこで、原告はこれに対し再調査の請求をしたが棄却され、更に東京国税局長に対し審査の請求をしたが、昭和三十三年五月二十四日不適法として、却下された。その後、昭和三十三年五月三十一日被告は、先になした決定(法人税法第三十条に基く)を訂正し、所得金額金二四六、三六三円、法人税額金九八、五二〇円、加算税額金四、九〇〇円と決定(誤謬訂正)した。しかしながら、右事業年度においては原告に所得はなかつたのであるから、被告のなした、右各決定はいづれも違法である。よつて、これが取消を求める。

旨陳述した。

被告指定代理人は、本案前の申立として、主文、同旨の判決を求め、その理由として、

原告は、昭和三十一年十一月三十日付で被告がなした決定に対し再調査請求をし、該再調査請求を棄却する決定は、昭和三十二年三月二十七日原告に通知された。これに対し、原告は法定の一ケ月の期間経過後の同年五月二十一日に審査請求を為したため、該審査請求は不適法として却下されたものである。従つて、被告の右決定の取消を求める原告の訴は、適法な訴願を経ずに為されたものであるから、不適法として却下されるべきものである。又、原告が主張する被告の誤謬訂正の決定取消を求める部分についても、この決定は前になした決定の一部を取消したものであるから、これにより、原告の権利又は法律上の利益が害されるものでなく、従つて、原告はこの決定の取消を求める利益を有しないものである。

と述べた。(証拠省略)

原告訴訟代理人は、被告の右主張に対し、

被告の右主張事実中、被告の再調査請求棄却の決定が原告に通知された、原告がこれに対し、審査請求を為した日は認めるが、その余の主張は争う。法人税法においては、訴訟の前提として再調査並びに、審査の各請求という二段階の訴願方法を定め、その請求を為す期間を定めている。しかしながら、これは必らず二段階の訴願を経なければ訴訟を提起できないという趣旨に解すべきでなく、その内、いづれかの、訴願において実体的な審理を経ておけば、適法な訴願を経たものと解すべきである。(高松高等裁判所昭和三十一年三月三十日判決参照)しかして、原告は、請求原因記載の如く再調査請求の段階において実体的調査を経て、右請求を棄却されたのであるから、適法な訴願を経たものというべきである。よつて原告は、右再調査請求棄却決定後直ちに訴訟を提起し得たわけであるが、なお、審査を請求することにより、行政処分の過誤につき再考の機会を提供するために審査請求を為し、その却下決定をまつて本訴提起に及んだものであるから、右審査請求に関する期間徒過の点は、本件訴の適法性については、何らの影響がないものである。

旨陳述した。(証拠省略)

理由

原告の本係争年度分の法人税に関する被告の法人税法第三十条に基く決定に対し、原告が再調査請求を為し、これに対し、被告の該再調査請求を棄却する旨の決定が昭和三十二年三月二十七日原告に通知されたこと。これに対し、原告が同年五月二十一日、東京国税局長に対し審査請求をしたが、該審査請求は不適法として却下されたことは当事者間に争いない事実である。

右事実関係によると、原告の為した審査請求は、再調査請求棄却決定の通知を受けた日から、法人税法第三十五条第一項所定の一ケ月の期間を経過した後に為されたものであるから、不適法なものである。

しかして、同法第三十条の決定の取消、又は、変更を求める訴の提起は、同法第三十五条の審査決定を経た後でなければ為し得ないことは、同法第三十七条の規定上明白にして、ここにいう審査決定とは実体的な調査を経て為される決定と解すべきであるから、本件のように不適法として却下されたような場合には、同条にいう審査決定を経たものということはできず(昭和三十年一月二十八日最高裁判所第二小法廷判決参照)、本件被告の処分の取消を求める訴は、適法な訴願を経たものということはできない。

又、原告は、本件のように二段階にわたり、訴願が認められている場合においては、いづれか一方において実体的な裁決があつたならば、訴願前置の要件を充足し、抗告訴訟を提起し得るものと解すべきである旨主張するが、その実体的裁決が、上級庁における裁判である場合ならばともかく、本件のように、下級庁において実体的な裁決があつたに過ぎず、上級庁においては、これがなく、只形式的要件の欠缺を理由に却下の裁決を為したような場合においては、若し、原告のように解するとせば、上級庁の裁決というものはこれを為しても為さなくても取消訴訟の関係では同じこととなり、上級庁の裁決は形式的なものになつて了い、かくすれば、下級庁の処分に対し上級庁において、更に、審査をさせて、過誤ある場合にこれを訂正させる機会を与え、然る後に、更に、不服のある者に対し、裁判所に出訴することを認めた同法第三十七条の規定の趣旨は没却される結果となつてしまうから、原告の右主張には賛同し得ない。(上級庁が誤つて実体的の調査をしないで却下した場合には右却下処分の取消の訴訟を起すことによつて救済は得られる)

更に、昭和三十三年五月三十一日付でなされた誤謬訂正処分の取消を求める処分については、右処分は、前記昭和三十一年十一月三日付でなされた決定と切り離してそれ自体独立の内容を持つ行政処分と解すべきでなく、又、右訂正処分は、原告に対し、新に不利益を与えたものではない(訂正処分が原決定よりその所得税等の額を減額したものであることは原告の自認するところである)のであるから、この処分のみを独立して、取消訴訟の対象となし得ないものと解すべきであるところ、本来の決定についての取消訴訟が不適法であること前段説明のとおりであるから右訂正処分の取消を求める訴も不適法というべきである。

よつて、原告の本件訴は全部不適法であるからこれを却下し、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 石井玄)

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